ゼロ、ハチ、ゼロ、ナナ。/辻村深月 あらすじ 感想

本選びに迷ったとき、タイトル買いします。
表紙買いならぬタイトル買い。(一緒か?)
この小説もタイトル買いした作品の一つです。





辻村深月「ゼロ、ハチ、ゼロ、ナナ。」 あらすじ・感想

ゼロ、ハチ、ゼロ、ナナ。 [ 辻村深月 ]

直木賞作家、辻村深月さんの作品。初めて読んだ辻村作品がこの小説。

有名な作家さんなので名前は知っていましたが、なかなか作品に手を伸ばせずにいました。
辻村さんは女性を描くのが上手だと聞いたことがあったからです。
女性が描く「女性」が苦手なんですよね。女性特有の内面がもう生々しくて。いや〜な気分になります。

どんなに優れた作家さんでも、やっぱり男と女の壁というものはあるじゃないですか。
表現力にいくら優れていようとも知らない感情は描けない。男性は女性の本当の姿を本当に知ることはできないし。
きっと、辻村さんが上手いっていうのはその部分の描き方なんだろうと思っていたんです。
結果、やっぱりそうでした。
お見事ってくらいに女性、いや、女の嫌な部分を余すことなく捉え表現されていました。

しかもタイトル買いしたもんだから、内容を知らずに読み始めますよね。
なんとその「女の嫌な部分」がテーマのひとつと言っても過言ではない物語でした。
終始身に覚えのある嫌悪感に包まれながらも読了。

 

ではざっとあらすじ。ネタバレなしです。

冒頭、主人公チエミの意味深なモノローグから始まります。
意味深かと思いきや結構早い段階で、あーお母さんを殺めてしまったんだなと気付きます。
(ネタバレではありませんのでご安心ください。)
大変なことをしてしまったと感じながらも、チエミはお母さんの通帳やカードを持ち家を出ます。
次に戻ってきたとき、何もかも元通りになっているんじゃないかなんて期待をしながら。
第一章からは、フリーライターのみずほの視点で物語が進んでいきます。
みずほは半年前に母親を殺し失踪した友人のチエミを捜すため、昔の知人やチエミの元彼から話を聞いて手がかりを追います。
第二章は再びチエミの視点で描かれ、失踪後の話から始まります。
物語の終盤、事件当日の出来事もはっきりし、漸くタイトルの意味も明らかになります。

と、こんな感じのお話です。
あくまでざっと、なんでね。ざっと。

 

ここから感想です。気をつけますがちょっとしたネタバレがあるかもしれません。
そして最初に言っておきます、少し辛口かもしれませんが、
個人的な意見として捉えていただけるとありがたいです。

まず冒頭のチエミのモノローグ。
なんていうか、不親切。表現がまわりくどいなという印象。
初めて読む作家さんなので、内容よりも書き方をどうしても見てしまいます。

第一章に入ってからも、ところどころでそんな描写があります。
伏線とまではいかないけど、読者に「ん?どういうことだろう?」って思わせる為の表現かもしれません。
たぶんその手法がわたしには合わないんだと思います。序盤は読み進めるのが辛かったです。

加えて、先に書いたように女性の内面とか性質が、みずほが話を聞くために会う何人かの知人を通して多様に描かれています。
いるわ~こんな女いたわ~と思わずにいられませんよ。それがわたしは辛かったかな。
現実逃避になりませんからね。

話を戻します。

チエミは母親と不仲だったわけではありません。むしろ仲が良すぎました。
合コンでの出来事すら電話で両親に報告するチエミに、友人の一人が「そんな親子、ホラーなんだけど」と言います。

いくつかチエミ母娘のエピソードが登場します。
初めは仲良しだなと思うんだけど、確かに読みすすめていくうちにチエミと家族(特に母親)の距離が異常に近いと気付きます。
でもその環境で育ってきたチエミはおかしいとは思っていません。
ここの流れはすごく自然でした。
結局この親子の距離感や共依存ともいえる関係が、冒頭の事件を起こさせたんだなぁと、すんなり思えます。

事件の発端になった出来事も、もしかしたらこの母娘関係が原因かも。
事件当日、チエミは初めて母に反抗するのです。
チエミの主張の裏側にある感情を思うと、少し胸が痛みます。
もう一人の主人公ともいえるみずほですが、簡単に言えばチエミとは正反対。
母娘関係も正反対です。このエピソードもでてきます。

みずほはチエミを捜すためにいろんな知人に会うんですが、まぁみんなクセのある人たちで。
よくよく読めば、そこらに溢れている女性たちなんですけどね。

先にも書きました通り、嫌な部分をすごく上手に描かれているんですよ。
打算的で、遠まわしのようで直接的で、駆け引きを楽しむような会話。優しいのか残酷なのか、紙一重のやりとり。
服装、持ち物、仕事、結婚、妊娠と出産。どこにでも優劣をつける。

チエミはそこに必死にしがみつき、みずほは一歩後ろでそれを見ている。
けれどみずほもまた、そんな知人たちを心の中では見下し、自分の本心はさらけ出さない。
読んでいて、どの登場人物も好きになれませんでした。

この本の中に生きる女性たちは、世の中の大半の女性たちなんだろうな。
そしてもれなく自分も同じ、もしくはかつて同じだった女の一人なんですね。
だからこその嫌悪感。拒否反応です。

個人的にラストは救いがなかったように思います。救いのないラストが嫌いなわけではないですけどね。
誰も、何も得なかった気がします。
あれが勘違いでなければ、少しは救いがあったのにと思わずにはいられません。

タイトルはですね、数字表記ではなくてカタカナ表記、句読点の存在が切なさを強調してると個人的に思います。
読み終わってタイトルの意味がわかってから、ぜひタイトルを声に出してみてください。騙されたと思って。
登場人物の気持ちになって、表記通りに声に出してみる。
そのこみ上げる切なさだけが、もしかしたらこの小説の唯一の救いだったかも知れません。

しつこいようですが、個人の意見です。

アヒルと鴨のコインロッカー/伊坂幸太郎 あらすじ 感想

本は断然、文庫派です。
鞄小さいんで。




感想文、1冊目。伊坂幸太郎「アヒルと鴨のコインロッカー」 あらすじ・感想

アヒルと鴨のコインロッカー [ 伊坂幸太郎 ]

伊坂作品の中でも人気かと思われます。



ざっとあらすじを。ネタバレなしです。

主人公、「僕」こと椎名は、大学入学の為に引っ越してきたアパートで、全身黒づくめで長身の青年「河崎」と出会います。
「一緒に本屋を襲撃しないか」
出会ったばかりの河崎からそんな誘いを受け困惑する椎名ですが、気付けばモデルガンを手に本屋の裏口の前に立っています。
ボブ・ディランの「風に吹かれて」を口ずさみ、2回歌うごとに裏口のドアを蹴る。河崎に指示された椎名の役割はこれだけです。
その間に、河崎は「広辞苑」を盗み出す。同じアパートに住んでいるブータン人が欲しがっているから、というのが理由です。

と、まぁこんな感じで物語は始まります。

あらすじを書くのが面倒になったわけじゃありません、断じて。
この小説を読んだ方ならわかると思いますが、ネタバレ無しで説明するには少し難しいお話です。

この小説は、「僕」の視点で語られる上記のお話と並行して、「二年前」のお話が、「わたし」こと「琴美」の視点で語られています。
現在と二年前。椎名と琴美。共通して登場する「河崎」と「ブータン人」、そしてキーマン「麗子さん」。
ふたつの物語はやがてひとつの結末へと繋がっていきます。

ここから感想です。核心をつかない程度のネタバレがあるかもしれません。

先にも書きましたが、この小説は伊坂作品の中でも人気かと思われます。

私も伊坂作品を初めて読む人にはまずこれをおすすめします。
まずタイトルが目を引きますね。
内容を想像しようと思うんだけど全くできず。しかしだからこそ気になるっていう上手いつけ方。

途中、ブータン人のドルジは琴美にたずねる。

アヒルと鴨はどう違うのかと。

ここで不思議なタイトルの意味がほんの少しだけわかったような気になるんだけど、本当の意味にたどり着くのはラスト近くになってから。
そしてその時、なるほどと納得すると同時に、この小説のすべてが要約されているようなその響きに、なんとも言えない切なさがこみ上げてくるんですよねー。

終盤、麗子さんが椎名に言う、

「君は、物語に途中参加しただけなんだ」

この台詞にもまた、納得させられます。

別々の視点で語られる「二年前」と「現在」。
交わるような交わらないような微妙な距離感にあった二つの物語は、
主人公「椎名」が登場しない「二年前」の物語こそが中心にあり、「現在」はその続きの物語、「椎名」はまさに途中参加した脇役なのです。

伊坂さんは伏線の張り方が秀逸だと有名。あの台詞もこの描写も伏線、なんてことがたくさん。
登場人物の冗談っぽい台詞も、その軽快な響きに似あわないくらい重い意味を持っていたり。
あちこちに散りばめられた伏線を、きっちり全部回収してくれます。

個人的に思うのですが、伊坂さんの伏線回収のタイミングって絶妙なんですよ。

時にすっきりしたり時に切なくなったり、伏線回収やネタばらしの鮮やかさを楽しむのも、伊坂作品を読むにあたっての醍醐味ですね。

この作品は映画化もされています。物語の性質上、「映像化不可能」と言われていましたが、まぁうまいこと表現されていました。

映画もよかったけれど、この作品はぜひぜひ小説から読んでほしいですね。

物語中、いくつか事件が起きますが、いわゆる謎解きを楽しむような事件ではありません。

この小説のミステリー的要素は別のところにあり、それが「映像化不可能といわれた」ことと、わたしが「小説から先に」と薦める理由です。

小説を読んで、内容とは別の部分で味わえる一度きりの感動を体験してほしいなと思います。

作者・伊坂幸太郎さんの魅力がたっぷり詰まっています。